去る6月9日(2022年)、明治学院大学社会学部社会学科の教授、柘植あづみ先生のゼミのクラスで、「キャリア形成と子どもを持つ・持たない・持てないを考える」という出張授業をさせていただきました。
37歳から不妊治療を始め、39歳から体外受精に取り組み、トータル6年間の不妊治療を経験した私自身の当事者としての経験と、その後当事者をサポートしてきた支援者としての経験から、『社会で必ず必要な授業』だと思ってきました。
「自分が健康で元気でさえいれば妊娠できる」と思っていた私は、不妊治療を経験しながら「妊娠を目指すってこんなにも大変なことだったんだ」と痛感しました。高額な治療費を支払い続けていく中で、毎回医師から言われる「原因は卵子の質」という言葉にどれほど混乱したことか。卵子の質が年齢と共に低下し妊娠に支障をきたすということを治療を通して知り、「そんな大事なこと、私はどこかで教わった!?」そう愕然としました。
そんな体験をしているのは当時の私だけでなく、今まさに不妊治療で苦悩している方々も同じ。
女性活躍推進、多様性、SDG's等々、時代はスピーディーに変化しています。そんな新しい社会変容については早々と共有されるものの、なぜ「妊娠に適した時期があること」は共有されないのか、違和感を持ち続けています。
子どもを持つか持たないか、その選択は個人の自由。どんな生き方をしても、一人ひとりのその人生は尊重されるべき大事なものです。ただ、将来子どもが欲しいと思っている若者が、また今は欲しくなくても将来欲しいという気持ちになるかもしれない若者が、知識がないがゆえに、長く不妊治療を受けても子どもができず苦しい思いを続けなくてはならないとしたら、こんなに酷なことはないと思います。
男性不妊についてもしかり。
カウンセラーという立場で男性不妊に悩む男性のお話も伺っていますが、ほとんどの方が「自分が原因で子どもが持てないなんてこと、これまでの人生で考えたことも、想像したこともなかった」と、ご自身の身に起きた現実を嘆かれます。そのショックは相当で、ご自分のアイデンティティや仕事に影響が出る方もいらっしゃいます。
男性も女性も望めば子どもができるわけではないこと、また子どもを持たない・持てない人生は否定されるものではないこと、たとえできなかったとしてもそれと人間性は関係がないこと等々、生殖の領域で若者に伝えるべきことは、予期せぬ妊娠を予防する性教育だけでなく”たくさん”あります。
学生の皆さん、とても真摯に耳を傾けてくださいましたし、ワークでは日頃発言の少ない方も積極的に参加くださるなど、まさに”自分ごと”として捉えてくださいました。
後からいただいた感想からも、それがわかります(下記、一部抜粋)。
【学生の皆さんからの感想】
不妊の問題は、自分が考えていた以上に身近で社会的な問題だと思った。これまで自分が育ってきたような、「子どもがいる家庭が温かく幸せな家庭」というイメージから抜け出せない自分を感じた。将来自分が子どもを「持つ・持たない・持てない」のどの立場になったとしても、またどんな生き方を選択したとしても、それを尊重し、肯定できるようになれたらと思った。
「子どもは望めば自然にできるもの」「親に孫の顔を見せてあげないと」といった無意識の固定観念を今一度考える貴重な機会をもらった。どんな生き方も間違っていないということを踏まえて、これからの生き方を考えていきたいと思う。
自分が想像している以上に多くのカップルが不妊で悩んでいることに驚いた。「時がきたら」ではなく、早い段階でパートナーと子どもを持つか持たないかについて、お互いの想いを擦り合わせておくことは大事なことだと思った。またお互いが自分の体の状態を早めから知っておくことも大切だと思う。
「子どもを持たないといけない」、「子どもがいる人生が幸せ」、「子どもを持つことがすべて」、という考え方に固執せず、子どもを持たない選択肢があることや、子どもを持てない人生もあることを念頭に置きながら、ひとつの考えに縛られることなく、さまざまな視点で「子どもを持つ・持たない・持てない」を考えていけたらと思う。貴重な話をありがとうございました。
自分やパートナーが原因で子どもを持てない(持ちづらい)と判明した時には、ちゃんと言葉でお互いの気持ちを伝え合える場を設けること、もし不妊治療をする場合は体を大事にすること、お互い自分を責めないことを忘れないでいたいと思う。
男性にも不妊の原因があるということを知って、自分と無関係の話ではないことを痛感した。男性に問題があったとしても通院するのは女性なのであれば、なおさら子どもを持つ持たないの意思は早めに確認し、できる限り自分にできるサポートをしていきたいと思った。
今、不妊で悩んでいる人がこんなにも多いことに驚いた。子どもを「持つ・持たない」と「持てない」とは、今まで同じ次元の問題かと思っていたが、2つはまったく違う問題だと思った。まず「持つ・持たない」があって、その次にもっと大きな「持てない・持てる」の問題が待っている。また、自分が将来子どもについて考える時、自分の気持ちをパートナーの気持ちと擦り合わせて、受け止めあわなくてはいけないことがわかった。とにかく、話し合いが必要だし、パートナー間で「こうなったら治療を終わりにしよう」というラインを決めなければならないとも思った。
90分という短時間の授業にもかかわらず、感受性豊かにこの授業の本質を理解し、深く考察くださった学生の皆さんに、感謝します。皆さんは私が想像していた以上にずっとずっと大人でした。
この出張授業の機会をくださいました柘植あづみ先生に、心より感謝いたします。
ありがとうございました。
※ 一般社団法人MoLive(モリーブ)では、教育機関と連携して、特別出張授業をご提供しています。このような出張授業に関心をお持ち、またご希望の教育関係者の皆さま、下記をご覧くださいませ。
オフィス永森
一般社団法人MoLive(モリーブ)
代表
永森咲希
#子どもを持つ・持たない・持てないを考える
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