わたしは、6年間不妊治療を続け、最終的に治療をやめ、子どもをあきらめた経験があります。一度心拍確認でき、4か月になる頃まで妊娠が継続できたこともありましたが、稽留流産になり、その後妊娠には至りませんでした。
とにかく子どもが欲しかった。ママになり我が子を抱きたかったし、夫にも夫の子どもを抱かせてあげたかった。親にも孫のいる人生を歩んでもらいたかった。
一人っ子で家族の縁が薄いわたしにとって、家族の人数が増えるということはとても尊く、まさにそれが幸せの象徴のごとく、憧れだったんですね。だから治療をやめられなかった。
治療も長くなると、
「自分は妊娠できないかもしれない」
「このまま続けていても良い結果は出ないんじゃないか」
そんな思いはもちろん脳裏に浮かびます。
でも、
「不妊治療さえ続けていれば、必ずいつか妊娠できるはず」
と、自分に言い聞かせ、信じ、「妊娠」という目的地に向かって走り続けてしまった。そして仕事も辞め、いつしか不妊治療がライフワークになっていました。
闇雲に、という言葉が当時のわたしにはぴったりだったと思います。
6年目、ある出来事があって、私と夫は不妊治療にピリオドを打つ決断をしましたが、不妊治療を始める前より、不妊治療中より、「終わりにする決断をする時」と、「その後」がつらかった。苦しい不妊治療をやめるのだから、その苦労から解放され、心が軽くなるかと思いきや、私の場合はそうではなく、自分の体も心も空洞になったような、なんとも無機質な日々が続きました。
人生の再構築は簡単ではなかった。アイデンティティの揺らいだ自分。何を大事に、どこに向かって歩いていったらいいのかわからず、途方に暮れました。
それからの道のりを歩む中で、当時を振り返ってはさまざまな思いに駆られています。
自分を信じることはとても大事なことですし、時に必須。でも、自分の力ではどうにもならないことに関しては、客観的に捉えることや冷静になることこそ必要なことかもしれない。
子どもを切望しながら受ける不妊治療。治療中、客観的になることや冷静になることはとても難しいこと。だからこそ、プレコンセプションケアが必要なんですよね。
子どもが欲しくてもできない人がいる、ということをわかっておくこと。
そして、たとえ子どもができなかったとしても、人間性とは関係なく、決して人として劣っているわけではないこと。この世に誕生した自分の命も大事だということ。子どもを抱けなかった自分も愛し、誇りに思って生きていいこと。
若いうちから考えておくべきことだと思います。
私は当時、そうした機会や時間を持たなかったし、それができなかった。
そんな私の反省が少しでも今苦しんでいる方にとって参考になるのであればと、2015年以来、不妊治療専門クリニック「はらメディカルクリニック」で開催される『不妊治療の終結を一緒に考える会』で講演をさせていただいています。以下は昨年開催した際のご案内。
<< 昨年(2023年)のご案内 → 今年2024年は12月14日の予定です>>
この不妊治療の終わりを考える会は、今は亡き「はらメディカルクリニック」前院長の原利夫先生が切なる想いをもって始められた会。以下、原前院長の言葉を記録しておきます。
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<原利夫 前院長からのメッセージ>
私が開業した当初は、女性の年齢が40歳以上は治療しないという暗黙のルールがあり、患者さんも自身で判断し自ら治療を終わらせるという時代でした。
このような流れが変わってきたのは、顕微授精の出現でしょうか。ART技術の進歩が、あきらめざるを得なかった患者さんに、妊娠の万能薬として受け入れられ、さらにここ数年の技術の進歩が、患者さん自身にまだ行けるかもしれないという、諦める決断の付かない状況を作り出していると思います。
治療を終結するという事は、残酷な決断である事は承知しています。
皆さんの努力は私が一番受け止めています。
そこで一度、ご自身を考えるのではなく、"感じる時間"を作ってみたいと思いました。
それが終結の会を始めたきっかけであります。
終結の会とは過去にとらわれず、今のご自身のありのままを受け入れる事を目的としています。ご自身を信じ受容出来ればそこには必ず答えがあると思います。
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当時患者だった頃に、この原先生のメッセージと出逢っていたら・・・。
不妊治療中に治療を終わりにすること、あきらめることを考えることはとても苦しいこと、過酷なことだと思います。ですが、ほんの少し客観的に自分を見つめてみる時間、先のことを考えてみる時間をつくってみることはけっしてネガティブなことではありません。
自分の生き方の"選択肢"を考えることですから。
P.S. 今年2024年のはらメディカルクリニックの不妊治療の終わりを考える会は、12月14日(土)の予定です。
永森咲希
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